
子供の頃、「よろしくメカドック」や「サーキットの狼」を読んで育った世代なら、一度は「いつかはこんなクルマに乗ってみたい」と夢を見たことがあるんじゃないでしょうか。
自動車漫画といえば、他にも『シャコタン☆ブギ』『頭文字D』『湾岸ミッドナイト』『ボルト&ナッツ』『GTロマン』など、ずいぶん読み漁りました。
私がクルマに興味を持つきっかけになったのは、やっぱり「よろしくメカドック」です。
当時は中学校低学年だったかな。
「チューニング」という言葉に、意味も分からず憧れました。
そんな甘い青春時代です。
若い頃は「速さ」に魅了されていましたが、30代になると少しずつクラシックカーにも目が向くようになりました。
そして、いつしか『GTロマン』に出てくるようなクルマと一緒に生活したいと思うようになっていたんです。
その夢を形にした一台が、今もガレージにある1994年登録のケーターハムJPEです。
英国スウィンドン・パワートレインがボグゾール製C20XEエンジンを250馬力までチューニングした、当時のケーターハムのフラッグシップモデルでした。
このクルマを中古で手に入れたのは2009年7月。
そして今年で所有18年目に突入しました。
パチパチパチ。
18年も経つと、「所有している」というより、「人生の一部」と言ったほうがしっくりくる気がします。
JPEって、実はちょっとややこしい
ここから少しだけマニアックな話になります。
「戻る」ボタンを押さないで、あと少しだけ付き合ってください(笑)。
スウィンドン・パワートレインがチューニングしたC20XEを積んでいれば、全部JPEだと思っている人がいます。
でも、実は違うんです。
JPEとは、ケーターハム創立35周年を記念して、元F1ドライバーのジョナサン・パーマーが監修した特別仕様車のこと。
もちろん搭載されているのは、スウィンドン・パワートレインがチューニングしたC20XEです。
一方、同じ250馬力仕様のC20XEと6速ミッションを組み合わせ、レース専用シャシーに搭載したワンメイクレースカーはVX-RE(Vauxhall Racing Evolution)と呼ばれます。
ところが、このVX-REまでJPEと呼ぶ人がいます。
さらに、ひどい人になると「JPE-RE」なんて呼ぶ人もいます。
JPEは「Jonathan Palmer Evolution」。
VX-REのREは「Racing Evolution」。
つまりJPE-REは、
Jonathan Palmer Evolution Racing Evolution
になります。
エボリューションが2回出てきます(笑)。
正直、一般的にはVX-REまでひっくるめて「JPE」と呼ばれることも多いので、そこまで目くじらを立てるつもりはありません。
でもね。
JPE-REだけはない(笑)。
JPEの生産台数は53台と言われています。
ただ、限定車の生産台数というのは意外と後から変わることもあるので、私は「そう言われている」くらいに受け止めています。
実際はもう少しあるんじゃないの?
……ねぇ?
ちなみに、生産台数だけで言えば、ワンメイクレースカーとして製作されたVX-REのほうがさらに少なく、希少とも言われています。
C20XEという名機
JPEの心臓部であるC20XEは、直列4気筒2リッターDOHC。
ボアとストロークは、ともに86mm。
いわゆるスクエアエンジンです。
一般的にショートストロークは高回転型。
ロングストロークは中低速トルク型。
スクエアは、そのちょうど真ん中です。
もちろん、エンジンの性格はボアとストロークだけで決まるわけではありません。
カムプロフィール、吸排気、圧縮比、フライホイール重量など、さまざまな要素が組み合わさって、一つの個性になります。
それでも86mm×86mmという数字を見ると、「よくできたエンジンだな」と思ってしまうんです。
本来、このC20XEはノーマルで150馬力前後。
それをスウィンドン・パワートレインが250馬力までチューニングしました。
……カタログ上は、ですが(笑)。
だって、1リッターあたり100馬力でも十分すごいのに、125馬力ですよ。
「いくらなんでも盛りすぎじゃない?」と思ってしまいます。
いやいや、オーナーたるものカタログスペックは信じないといけませんね。
おほほほ。
ケーターハムが変わった時代
C20XE以前のセブンといえば、フォード・ケントエンジンや、それをベースにコスワースがDOHC化したBDシリーズが花形でした。
BDRに憧れた人も多いんじゃないでしょうか。
でも、時代は変わります。
排出ガス規制や部品供給の問題もあり、新しい高性能エンジンとして採用されたのがC20XEでした。
このスウィンドン仕様の成功をきっかけに、ケーターハムはハイパワー路線へ進んでいきます。
最近の頂点とも言える620Rは310馬力。
この「620」という数字は1トン当たりの馬力を表しています。
昔は「ケント」「BDR」「ボグゾール」とエンジンで呼んでいましたが、今は数字で呼ぶ時代になりました。
……おっと、また脱線しました(笑)。
一方で、660ccエンジンを積んだ160や170も登場しています。
これはアンソニー・コーリン・チャップマンの「軽いことこそが正義」という思想への原点回帰。
昔からのセブン好きとしては、どちらも「らしいなぁ」と思えるから面白いんですよね。
18年前、電話一本で決めた
2009年当時、新車ではデュラテックエンジンを積んだR500が発売されていました。
もちろん憧れました。
でも900万円近い価格。
安月給のサラリーマンには現実的ではありません。
そこで程度の良いBDRを探していました。
「結構なローンになるんだろうな」と覚悟しながら。
そんな時に見つけたのが、このJPEでした。
「これは逃したら、もう一生買えないかもしれない。」
そう思いました。
もちろん、不安もありました。
250馬力。
本当に自分なんかが乗りこなせるのか。
身の丈以上じゃないか。
何日も悩みました。
そして最後は理屈じゃありませんでした。
欲しい。
だって、欲しいんだもん。
結局、現車を見ることなく電話一本で購入しました。
結婚は買い物じゃありませんから(笑)。
今思えば、人生で一番勢いのある買い物だったかもしれません。
18年間乗って思うこと
ありがたいことに、大きなトラブルはありませんでした。
クラッチのレリーズベアリング。
燃料タンクからの微小なガソリン漏れ。
思い返せば、そのくらいです。
こういう少し変わったクルマを維持するコツは何かと聞かれたら、私は迷わず「クルマ仲間からの情報」と答えます。
そして、信頼できるショップ。
ただ、この「信頼」には二つあります。
一つは技術。
もう一つは人です。
どんなに腕が良くても、人として波長が合わなければ長い付き合いはできません。
旧車や趣味車というのは、結局のところ、人とのつながりで維持していく部分が大きいんですよね。
これからも、この相棒と
最近のケーターハムは、新車価格が900万円を超える時代になりました。
18年前に思い切って買った自分を、少しだけ褒めてやりたい気もします。
もちろん、そんな未来は当時の自分には分かりませんでした。
あの時あったのは、「欲しい」という気持ち。
そして、少しの不安。
でも、あの一本の電話が、18年間という時間をこのクルマと一緒に過ごすきっかけになりました。
18年前は、このクルマに自分が乗るなんて想像もしていませんでした。
でも今は、このクルマがない生活のほうが想像できません。
速いクルマはいくらでもあります。
性能の良いクルマもたくさんあります。
でも、「また乗りたい」と思わせてくれるクルマは、そう多くありません。
私にとってJPEは、まさにそんな一台です。
これから先も部品の心配や維持の苦労はあるでしょう。
それでも、このクルマと一緒に走れる時間を楽しみながら、できるだけ長く付き合っていきたいと思っています。